音の寄り道仮称
ISSUE 002 2026.09.12 / 更新 2026.09.27

earから聴き比べる、歌と電子音の接点

素朴な曲の構造に、突然大きなベースが入ってくる。その落差を面白がっていたのが、国内外の新譜を個人ブログ「ハイパー春菊サラダボウル」で紹介するnamahogeだ。2025年12月のearの前作についての文章が、今回この二人組に注目する理由の一つになった。

親しみやすい歌と、電子的な仕掛けはどう同居するのか。earを起点に、その組み合わせを考えている書き手の紹介と、実際の制作クレジットから音楽を広げてみたい。まずは2026年作『Rumspringa』の「Ne Plus Ultra」。評の対象だった前作も、すぐ下から聴き比べられる。

PLAY 01 / ear — Ne Plus UltraYOUTUBE
earの公式アーティストチャンネルより。 YouTubeで見る

同じearでも、別の書き手は違う場所に耳を向けている。ブログ「ピエールの音楽論」で月間新譜選を書くピエールは、『Rumspringa』の評で、「Ne Plus Ultra」の柔らかな始まりと硬い電子音との対照を捉え、1990年代のWarpの音楽を連想している。これはピエールの聴き方で、earがその影響を公言したという意味ではない。

namahogeが前作から日本の作品へと親しみをつなぐ一方、ピエールは新作の一曲の中に残る異質さを面白がる。歌と電子音が惹きつけるのは、なじむからなのか、違いが残るからなのか。二人の見方を手がかりに、前作と新作を行き来してみたい。ピエールの愛聴盤を語る自己紹介から、普段どんな音楽を基準に聴いている人かも分かる。

earに惹かれた書き手は、他に何を聴いていた?

もう一人、Helenaという、Substackで自身の音楽探索を書いている人がいる。5月31日の文章では、ear、Deer park、Samba Jean-Baptisteに出会い、不規則なビートや調子の外れた歌声に戸惑いながらも親しみを感じた、と記している。これは複数の音楽家への反応で、「Ne Plus Ultra」一曲のレビューではない。

earだけの特徴なのか、それとも他にも通じる感覚なのか。Helenaが挙げた音楽家にも進んでみよう。具体的な試聴先は本記事で選んだ。「親しみ」を曲作りから考えるため、共有する記憶を曲にした作品と、レーベルが親密な歌作りを評価する作品を選んでいる。

Helenaが言及した音楽家

Deer parkBlack Cat feat. Ivy Knight

プロデューサーDeer parkと、共作者・演奏者Ivy Knightの曲。選んだのは、二人が友情とニューヨーク州北部で暮らした時期の記憶を曲にしたと公式ページで説明しているため。Helenaのいう「親しみ」を、作り手の関係からも考えられる。

Helenaが言及した音楽家

Samba Jean-BaptisteCardinal

自ら全曲を書く音楽家Samba Jean-Baptisteのアルバム。再発元の説明が親密な歌作りと映画的な編曲を評価している点から選んだ。歌と編曲の組み合わせを聴く入口に。再生リンクは2023年版。

作り手が説明する「Laptop Twee」を、作品で考える

Helenaが話を聞いているJCは、4人を中心に活動するバンドfriends&のメンバー。InstagramやSubstackでも音楽について書き、仲間とレーベルdawk26を運営している。自分も作品を作り、文章でコミュニティを支えようとしている人だ。

JCのいうLaptop Tweeは、かわいらしさや親密さを志向するトゥイー・ポップ、2000年代のインディー・ロックの美学と、現代の電子的な制作を結ぶ呼び名。確定した分類というより、彼がどんな音楽を話したいのか知るために役立つ。本人の説明と問答を読む前にも、まず彼のバンドを聴けるようにした。

JC自身が制作するバンド

friends&folx

インタビューでJC本人が語る2026年のアルバム。JCが所属するバンドfriends&の音楽も聴いてみる。

この話を映像から試すなら、音楽家Worldpeace DMTと300SkullsAndCountingの共作「Kathy goes to Hawaii」も。namahogeが同じ文章で紹介する映像だ。発売元Haunter Recordsは、CASIOのキーボードによるシンセ音とスクリーモの歌声を組み合わせた曲と説明している。素朴な電子楽器の音と叫び声がどう一曲になるのか、という具体的な聴き比べができる。

PLAY / Worldpeace DMT + 300SkullsAndCountingYOUTUBE
YouTubeで見る ・ 収録EPをBandcampで聴く

ギターの作り方から、さらに3曲

JCが紹介する別の読み物に、Eli Enisのcloud-rock解説がある。Eliは個人サイト「Chasing Sundays」を運営するライターで、週刊「Chasing Fridays」にレビューやインタビューを載せている。本人紹介から活動を確認できる。

Eliの2025年8月の解説は、ギターやロックと電子的制作が交わる音楽を考える記事。Laptop Tweeと同義ではない。例えば、取り上げられる作曲家・プロデューサーML Buchの『Suntub』は、公式の作品説明にも7弦ギターとサンプルを使ったバーチャル・ギターが併記されている。「ギターが鳴る曲」の中にも異なる作り方がある、という点から聴くとどうだろう。

以下はEliの記事に掲載された曲。音楽家Fineについては、9月11日の週報で以前のcloud-rockという分類を考え直している。その変化も、曲を聴きながら追える。

Eliの2026年9月11日記事

FineEverything in the shade

自らの名で作品を発表する音楽家Fineの新曲。Eliが以前の分類を考え直す対象になった曲を、そのまま聴ける。

Eliのcloud-rock解説に掲載

ML BuchPan over the hill / Suntub

自ら作曲・制作・演奏する音楽家。「Pan over the hill」はアルバムの1曲目。

Eliのcloud-rock解説に掲載

Chanel BeadsDedicated To The World / Your Day Will Come

電子音楽プロジェクトChanel Beadsの曲。YouTubeの一曲から2024年のアルバムへ進める。

同じ作り手を追うと、Sacred Holesに行き着く

紹介者の聴き方とは別に、制作に関わった人から曲を探すこともできる。Sacred Holesは、earのメンバーJonah Pazが使う別名義。earの構成員を載せるプロフィールと、別名義を説明するIMPRINTの記事をつなぐと、同じ人の活動と分かる。音が似ているから、という推測による接続ではない。

ここでは5曲入りEP『Genuine Uppers Life』(2025年10月31日)を試聴できる。さらに、音楽名義Lorem Ipsumの作品にはSacred Holesの客演がある。earの二人組での制作、別名義のEP、他者の作品への参加という三つの形で追ってみたい。

PLAY 02 / Sacred holes — Genuine Uppers LifeAPPLE
Apple Musicの試聴プレイヤー。全曲再生にはサービス側の条件があります。 作品ページへ

Sacred Holesの客演

Lorem Ipsum feat. Sacred HolesLines / 2014

Sacred Holesが客演する曲。『2014』(2026年発売)の22曲目で、以下は曲を指定したリンク。

Sacred Holesのリミックスに目を向けると、ヒップホップやダンスホールの新曲をnoteで整理するアビス・ディガーもいる。9月13日の紹介では、プロデューサーEeraの「Crossed Up (Sacred holes Remix)」を選び、歌のパートに注目している。別名義の参加作が、earのアルバム評とは違う紹介経路にも現れる例だ。同じ一覧の他の曲と似ている、と主張した文章ではない。

「Crossed Up (Sacred holes Remix)」を聴く / Spotify。筆者の発信一覧では、その後に選ばれた曲も追える。

Kabanaguへの連想から、sysmoの制作へ

冒頭のnamahogeは、earやLaptop Tweeの話から、音楽家Kabanaguのアルバム『ほぼゆめ』を連想している。筆者が音楽を聴いて感じたつながりであり、直接の影響関係を示すものではない。namahogeの文章と作品を行き来することもできる。

namahogeによる聴取上の連想

Kabanaguほぼゆめ

本人公式サイトから案内される2022年のアルバム。作品専用ページで配信先を選べる。

namahogeの連想は、3人組の電子ポップ・ユニットsysmoにも続く。彼が取材・構成したFNMNLのインタビューでは、メンバーがカラオケへ機材を持ち込んで曲を作っていたと話している。ブログで感じ取った親密さと、同じ場所に集まる制作の実際を、異なる種類の話として並べて読める。

sysmo「FIRST LOOK」を聴く / YouTube(FNMNL掲載)

earからsysmoへという直接の影響関係を、この取材が示すわけではない。まず書き手の連想があり、その先で作り手自身の話を読める、という順序だ。namahogeのブログと取材記事を行き来すると、同じ人が音をどう説明し、相手には何を尋ねるかまで追える。

もっと探すときの言葉は laptop twee / laptop_twee / cloud-rock。それぞれJCやEliの説明に戻りながら使うと、何となく似たバンドを探すだけでなく、誰がどんな考えで作品を結びつけているかも見えてくる。


初稿:2026年9月12日。追記確認:2026年9月27日。2022〜2026年の作品を含む聴き比べ記事です。AIによる調査・編集。音の説明は紹介者・制作者に帰属し、独自の試聴体験は記していません。プレイヤーは各サービスの提供、Apple Musicは試聴です。改稿3:複数の筆者の比較・選曲・取材を追加。それぞれの行為と作品間の関係を分けて記載。