音の寄り道仮称
ISSUE 004 2026.09.12 / 更新 2026.09.27

スケッチからクラブへ。Alex Nutの「Bright」を三つの形で聴く

まずはAlex Nut「Bright (Re-FreQ Mix)」から。AlexはDJ、プロデューサーで、レーベルEglo Recordsの共同設立者でもある。この曲を知った入口は、ライターで選曲番組を作るAmar Patelの「Moonbeam Levels」2026年8月回。Amarは『The Heat EP』のグルーヴへの感覚を評価し、なかでもこのミックスに、より遠くへ連れていかれる面白さを感じている。

本号で取り上げる理由は、同じEPに完成前のスケッチと原曲も入っているから。曲が生まれ、歌い手を迎え、クラブ向けのミックスになる。その過程を三つの音源から辿れる。

PLAY / Alex Nut — The Heat EPBANDCAMP
公式Bandcampプレイヤー。入口のBright (Re-FreQ Mix)は2曲目。 作品ページ

まず「Bright (Re-FreQ Mix)」を聴く

プレイヤーは2026年7月24日発売の『The Heat EP feat. Allysha Joy & Steve Spacek』。入口のミックスは2曲目だ。長い解説の前に、ここから始めてみてほしい。

原曲の前には、鍵盤のスケッチがある

公式の作品説明によれば、「Duck Duck」は後に「Bright」になる最初のスケッチ。鍵盤奏者Sam Croweが電気ピアノのRhodesとピアノで参加している。一方、「Bright」は歌い手Steve Spacekとの共作で、Re-FreQ Mixはその原曲をクラブ向けに作り替えたもの。発売元はミックスについて、303と記されたベースラインと揺れるパーカッションを強調している。

これを知ってから戻るなら、順番を逆にして「Duck Duck」→「Bright」→「Re-FreQ Mix」へ。どのフレーズを軸に聴くと、同じ曲の成り立ちが見えてくるだろう。公式が示す制作の関係を手がかりに、聴く順序を選べるのがこのEPの面白いところだ。

Brightの前身スケッチ

Alex Nut feat. Sam CroweDuck Duck

公式説明でBrightになる前のスケッチとされる曲。Sam CroweがRhodesとピアノで参加。

ミックスの原曲

Alex Nut feat. Steve SpacekBright

Steve Spacekとの共作。スケッチから歌のある曲へ進んでみる。

DJが選んでいた歌い手と、曲を作る

Steve Spacekは、このEPで初めてAlex Nutの周囲に現れた名前ではない。レーベルNinja Tuneは、SpacekがBeat Spacek名義で2013年に出した「Alone In Da Sun」を、AlexのDJセットで好まれていた曲として紹介している。DJとして選ぶ関係から、2026年の「Bright」では共作者へ。この二つの記録があることで、Spacekの歌を続けて聴く理由が具体的になる。

Beat Spacek「Alone In Da Sun」の公式試聴ページへ。公式ページには試聴用の「Play All」が用意されている。「Bright」の元ネタだとする説明ではなく、選曲と制作という二つの接点をたどるための一曲だ。

歌とビートの組み合わせには、レコード店Jazzy Sport下北沢の紹介も手がかりになる。『The Heat EP』の商品文は、歌と鍵盤に加え、ミックスごとのベースやリズムの違いに注目する。AmarがRe-FreQ Mixに感じた展開の面白さを、どの音の変化から考えるかという手がかりになる。

同店のSteve Spacek『Space Shift』紹介では、ソウルの歌とヒップホップやブロークンビーツの組み合わせを考えられる。『Space Shift』をYouTube Musicで聴く。これらは販売店による無署名の商品紹介。個人の批評と立場は違うが、店の新着紹介を追うと、歌とビートの接点を別の作品へ広げられる。

分岐:Actressを、曲順から読む

Amarが同じ回で選んだ、Darren Cunninghamの名義Actress「Overchord」は、ここから別の道へ。Amarは四つ打ちの穏やかな流れの中に、弦の響きや音の波による落ち着かなさを感じている。Alexとの共作をたどる続きではなく、選曲をきっかけに別の音楽家へ進む分岐だ。

Amarが同じ8月回で選曲

ActressOverchord / Radical Frame

『Radical Frame』の収録曲。アルバムは2026年9月18日発売。Alexとの共作経路とは別の分岐。

WATCH / Actress — OverchordYOUTUBE
Anna van der Velde監督。 YouTubeで見る

収録作『Radical Frame』は、公式ページで2026年9月18日発売と確認できる。初稿時点の発売予定から更新した。

Actressの曲順に目を向けるのは、音楽媒体TURNで作品評と取材を書くhiwattだ。2023年作『LXXXVIII』のレビューで着目するのは、終わりを告げるような「Game Over」という曲が序盤に置かれること。そこから、形勢が逆転しうるゲームとして読むのは筆者の解釈だ。

「Game Over ( e 1 )」を聴く / Actress公式Bandcamp — アルバムの5曲目。全体の曲順と行き来すると、一曲の音だけでなく前後の配置から聴く入口になる。「Overchord」にも同じ意味があると決めるのではなく、別の作品を読む視点として持ち帰りたい。

さらに、Actressの新作から実際の参加者へ進む道もある。『Radical Frame』の「Sheets」には、音楽家Rainy Millerが客演している。hiwattは、彼と二人組Space Afrikaの共作を扱うインタビューも書いている。

そこでhiwattが結びつけるのは、音の粗さと、音楽ファイルの共有ソフトLimeWireを使っていた世代の記憶。対してMillerは、それを意図した表現というより、経験が積み重なった結果として説明する。書き手の連想に本人が少し違う答えを返すので、影響を一言で決めずに読める。二組の共作『A Grisaille Wedding』を聴く。Actressで気になった客演者から、作り手の経験と、その背景を聞き出す人までたどれる。

もう一つの制作探訪:Ibrahim Alfa Jnr.

Ibrahim Alfa Jnr.「Inwards Reverse」もAmarの選曲で知った一曲。本人が制作を語る、James Guiのインタビューと、発売元による『Infinite Black Inside』の説明から、音を試し、アイデアを記録する仕事へ進める。Alexとの直接の関係は確認できていないため、こちらは独立した寄り道として置く。

Amarによる4曲特集の一曲

Ibrahim Alfa Jnr.Inwards Reverse / Infinite Black Inside

2026年5月発売アルバムの11曲目。制作方法の違いからAlex Nutと並べるのは本号の選択。

次を探す語は、Alexの作品にあるbroken beat / deep house、Alfaの作品のtracker music。三人を一つのシーンにまとめる名前ではなく、それぞれの制作の周囲を探すための語だ。

この選曲の続きを追うなら

Amarは、南東ロンドンで活動し、取材記事やコピー、脚本などを書く人だ。本人プロフィールと、Substack「Bluejeans & Moonbeams」で活動を追える。音楽番組「Moonbeam Levels」もそこで公開している。

2月のライブ音源特集ではスタジオ版から離れる演奏に関心を向け、5月のビート特集では2000年代の制作文化を振り返っている。新譜だけを速く拾うというより、演奏や制作の歴史を、今聴く曲につなぐ紹介者として追ってみたい。

選曲の外にも接点がある。本人の7月9日の文章によると、Amarは地域の音楽会場づくりを進めるSister Midnightの無償の理事で、「Brick by Brick」という番組で創設者Lenny Watsonにその過程を聞いている。活動を外から紹介するだけでなく、自身も関わる立場だ。曲を選ぶ人が、音楽を聴く場所にどう関わっているのか。そこまで含めて次の発信を読める。


初稿:2026年9月12日。追記確認:2026年9月27日。8月の選曲を入口に、過去の選曲・共作と批評へ進む記事です。AIによる調査・編集。音の説明は紹介者・発売元・本人発言に基づき、独自の試聴体験は記していません。

改稿:AlexとSteveの関係を主線に補強。ActressとIbrahimは別の探索先へ整理し、作品評と取材への読み先を追加。